第33話 木っ端が燃えた上州路
紋次郎が寝ている小屋で、気づかず勘蔵の女と密会していた勘蔵の代貸卯之吉は、達磨の根付けを落としていく。取りに戻って紋次郎に気づき斬りかかるがいなされ、紋次郎と知ってそのまま引き上げる。紋次郎には達磨の根付けに覚えがあった。以前病気で行き倒れているとき薬をくれた「藤岡の勘蔵、人呼んで鬼勘」と名乗った貸元が持っていたものとそっくりだった。道中卯之吉の命を受けた三下の伝八たちに襲われるが、軽く片づける。藤岡の勘蔵を訪ね1月前の礼を云うが、根付けを見て人違いと気づく。紋次郎は入った茶店で食事をしながら村人の話を立ち聞き、勘蔵と武兵衛という貸元が犬猿の仲で今は武兵衛が押されぎみだという話だ。三下伝八、紋次郎を見つけ襲うがいなされる。店の人が紋次郎の根付けを見て武兵衛の物だという。武兵衛の縄張りに出かけて行くと、勘蔵の女お筆と三下伝八が武兵衛の手下に絡まれている。そこへ武兵衛が現れ女や三下に手をだすなと止める。紋次郎、武兵衛に声をかけて礼を云う。根付けで分かった旨を伝えると武兵衛の顔色が変わった。伝八の恋人のお鶴が紋次郎に、伝八に足を洗うように言ってやってくれと頼むが、「その伝八さんに、あっしは殺されようとしたんですぜ」と正当至極な言い訳で断っておきながら、なぜかお鶴のところに来て、伝八を自分がいる小屋に呼びつける。やってきた伝八に達磨の根付けを渡して、卯之吉とか云う人のものかと聞き、持ち主を調べた方がいいとアドバイス。伝八、卯之吉が裏切って武兵衛と通じているのを立ち聞きし、紋次郎のもとに再びやってくる。紋次郎は、女を使って勘蔵親分を殺そうとしているのではとのヒントを与えるが助勢は拒否。お筆は勘蔵を毒酒で殺し、卯之吉に殺される。伝八は親分の敵と卯之吉と武兵衛一家に斬りかかる。卯之吉と斬りあいになるが、武兵衛助勢を止め、生き残った方を殺すように言う。紋次郎が通りかかり「恩をあだで返すわけにはめえりやせん」と素通りしようとするが、一家に斬りかかられ、一家を片づけ武兵衛を斬る。伝八、卯之吉を斬ってやくざをやめる。
第1のキーワード「自然美とセット」
この回は月明かりが効果的に使われている。冒頭の紋次郎が寝ている小屋で卯之吉たちが密会している場面だが、煌煌と月が照っているのか、小屋は電灯を点けたように明るい。こんなに明るいと気付きそうなものだがと思ってしまう。
伝八が訪ねてくる小屋は逆に薄暗く落ち着いた雰囲気だ。
第2のキーワード「日常生活」
今回は洗濯がでてくる。伝八が、着物に着いた血を恋人のお鶴に見とがめられ、盥に水を張って洗濯するシーンだ。紋次郎が洗濯するシーンはないのだが、着替えも持っていないようだし結構頻繁に洗濯しているのだろう。
第3のキーワード「思想と処世術」
第一は「立ち聞き」というか探偵趣味と云うか、人の噂話にいつも耳をそばだてている。事件に首を突っ込んでやろうというのではなく、自分の身をまもるための情報収集なのだろう。まず、自分の寝ている小屋で密会している卯之吉とお筆を立ち聞き。食事に入った茶屋でも、勘蔵親分と武兵衛親分が犬猿の仲で、今は武兵衛の旗色が悪いということを立ち聞きする。
第二は「関わらない」「正義の味方面しない」お鶴に伝八が足を洗うように説教してやってくれと頼まれると、「その伝八さんにあっしは殺されようとしたんですぜ」「今度はあっしも容赦しやせんぜ」「あっしは頼まれごとが嫌えなんで。ごめんなすって」と云う。普通の勧善懲悪の時代劇のヒーローなら、お鶴のような女に頼まれたら伝八のようなやつを更生させようと進んで一肌脱ぐのだが、紋次郎は違う。というか紋次郎が至極もっともで普通、時代劇の御存じのヒーローの方が変なんだ。
紋次郎ではないが、この回悪者が3人出てくるが、それぞれ個性的で面白いし、100パーセント悪でない、何がしか同情に値するものを持っている。まず勘蔵一家の代貸卯之吉だが、ナンバー2だが、ナンバー1になりたい男だ。親分の女お筆と通じて、親分勘蔵を亡き者にする。敵の親分武兵衛にそそのさかれているわけで、最終的には始末しようとされる。印象的なのは、お筆を斬ったあと、お筆の乱れた裾を直してやるところだ。お筆を殺めることは武兵衛の指示で、彼自身はお筆に対して少しは情もあったのだろう。なんともやりきれない表情をする。お筆は卯之吉にまじめに惚れていたので、卯之吉も人間らしい心があったのだ。次は鬼勘と呼ばれる勘蔵だが、「湯煙・・・」の井上昭文が演じている。悪人面だが、どこか憎めない愛嬌がある。伝八をリンチさせたり、鬼勘の名のとおりの親分だが、お筆には本気でほれていて、隙だらけだ。3番目は、仏の武兵衛。小善大悪の人だ。行き倒れの紋次郎に薬を恵んでくれた人第2号だ。第1号は石川良庵先生。2人とも紋次郎に斬られるのが悲しい。ただ、成功者と云うのは、実にまめに小さな善を積み重ねる。それが善因善果となり、陰徳陽報となり成功する。誰が見ていなくとも自分の潜在意識が見ているのだ、自分は世のためになる立派な人間だとのセルフイメージが自然に培われ、高い自尊心となる。ところがこの親分は、敵の勘蔵と妻お筆、利用した代貸卯之吉まで殺そうとする。外向きは仏の武兵衛で通っていて、女や三下に手をだす子分をいさめたりする。そして「人呼んで鬼勘とも言ってみたかったのだろうな」と云っている。仏の武兵衛はセルフイメージに合わないので、違和感があるのだろう。自己同一性への欲求がそういわしめたのか。
第5のキーワード「官能性と恋愛沙汰」
病気で行き倒れて苦しんでいるのは3回目か、みゆきという酌女に2両恵んでもらった時、石川良庵に薬を飲ませてもらった時、あせびっしょりでうめいている道端に座り込んでいるんだからよっぽどつらいのだろう。みっともないとの自覚があるらしく「こんな姿で申し訳ござんせん」と云っている。紋次郎は、横座りから身体を倒して、脚を横に流した体勢で、アシメトリーで、脚が長いのできれいに見えるのだろう。
恋愛沙汰だが、今回のヒロインはお鶴で、伝八の恋人で、問題にならないし、お筆とは接触がない。