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    別冊・プロレス昭和異人伝2009-11-12 00:10:23

    中邑真輔の見つけた「もう一つの闘い」

    中邑真輔に人間としての華はあるが、プロレスラーとしての華は存在しない。
    それはプロレスに中邑真輔が追いつけないのではなく、中邑真輔の華と色気を含んだ個性あるいは感性そのものが、元々、プロレスを凌駕しているからである。

    そこに中邑真輔の困難があった。

    その点、棚橋は幸福であった。
    棚橋という個性と感性がプロレスを越える事は無いので、しっかりとミニマムにプロレス界において自分の色を奏でる事が出来る。
    プロレスを離れれば、世間の感性を揺らす事等無い選手であるが、プロレス界においては、リング内外において輝ける。
    つまり棚橋程度の個性と感性こそ、プロレス界の適正なサイズなのである。

    猪木、前田、長州と、世間に響く色気を持つ選手達を見て来た世代のファンの多くは、どことなくミ二マム化した現代プロレス界の物差しにはめ込む事の出来ない中邑真輔の不思議な色気と感性に気づいていた。

    しかし、そういったファンの多くが、その中邑真輔の色気と感性が、プロレス界においての華や個性に昇華する時が来る事に関して諦めていた感が強い。

    あるいは、もしその日が来るならば、再び、何がしかのリアルファイト志向を貫いた果てであると思っていたはずである。

    総合進出を一時終結した後、現代プロレス界の住人達に染まろうと、プロレスチックな個性を想像しようとした所で、住人達の望むものは絵文字とジェットコースターなのである。
    中邑真輔が新日本プロレスのリング上で、落としたのは、リアルな実力だけではなかった。
    総合やプロレス界には留まらない自身の感性を落としたのである。

    プロレス界に見合った個性作りに励む中で、中邑真輔は黒のロングタイツをはく事になる。
    本来、パンプアップされた頑丈な肉体こそロングタイツに合うのであろうが、細身の中邑真輔にロングタイツは何とも全身に間延びした印象を与えるような気がしたものであった。
    何よりロングタイツとは、ある意味、現代プロレス界の象徴でもあり、中邑に「闘い」を求めるファンが夢見た総合参戦時のスパッツと対局に位置するものである。

    私には、中邑真輔の黒のロングタイツが、現代プロレスに迎合する個性作りの為の半端な装飾品に思えた。

    しかし、ここに来て、中邑真輔は現代プロレスに迎合して自分の感性を落とす事なく遠慮のないレベルでの個性作りに精を出して来た。

    当然、現代プロレス界の住人達に中邑真輔の個性と感性を察知出来る感受性のセンサーを持つ者はいない。

    中邑真輔の吠えた相手先のファン、つまり新日本プロレスを捨てたファン達に、自分の感性の物差し役を求めたのである。

    外側のファンを押さえた中邑真輔は、今度は外側のファンに迎合し、能動性を取り戻し、マットの上で棚橋相手に何かを仕掛けるのではないかとの期待を持たせる事に成る。

    しかし、そこでまた中邑真輔が選択した手法とは、どちらのファンも裏切らないものであった。

    リアルで能動的な攻防に頼る事無く中邑真輔が見せた手法とは、アントニオ猪木のもう一つの闘いのプロレスの表現の手法でもあった。

    脳内の熱量は真剣勝負と同じほどの熱を保ち、実際にはプロレスを遂行する。
    猪木がタイガージェットシン相手に行なった抗争を思い出すものがある。

    私は棚橋との試合だけで俄然、中邑真輔の黒のタイツへの間延びした印象を消し去る事が出来た。
    細身の肉体に似合わない黒のロングタイツが、プロレス界を越えた個性に変化しつつ在る。

    総合のスパッツでデビュー当時「闘い」を遂行した中邑真輔が、今度はロングタイツで「闘いのプロレス」を必死で表現しようとしている。

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