「すきやばし次郎」の店主、84歳の小野二郎さんは、いまも現役で鮨を握っている。年齢を考えると驚異的なことだ。
7歳で奉公に出され、小学3年生で包丁を持たされた。6年生でひと通り包丁が使えるようになり、その頃には婚礼や法事の出張料理を任されるようになったという。これは現在では到底考えられない早熟ぶりである。
本書は、著者が2年間小野二郎さんにインタビューし、それを記述したものである。
2007年11月に発売された『ミシュランガイド東京 2008年版』「すきやばし次郎」が三つ星に選ばれたのはご存知の通りだが、そのことについて以下のように語っている。
<そもそもうちの店はミシュラン向きじゃないんですね。店の空間自体が狭いし、トイレも自前じゃなくてビルの共用だし。支払いにカードは使えないし、ワインも置いていないし、お酒自体を勧めることもしていない。第一、店が地下にあってしかも地下鉄の駅からほぼ直結だから、居心地の良さや快適性を重視するミシュランの基本方針とあわない。P34>
「すきやばし次郎」が超一流である理由は、厳しいネタ選びはもちろんだが、握る順番、酢めしやネタの温度管理を独自の感性で確立していったところにある。
握る順番については、「握りは白身から」という早い頃から主張していた山本益博さんの影響が大きい。
<うちのお任せはまず白身から始めます。夏場はマコガレイで、冬場はヒラメ。次いでイカ、シマアジやイナダなどの色物をつないだ後、マグロを赤身、中トロ、大トロの順で握っていきます。P150>
こうした握る順番になったのはここ5〜6年のことだという。
温度管理については次のように語っている。
<いまだにお鮨は冷たいものっていう印象をお持ちの方多いと思うんですが、そうではない。まず酢めしがほんのり温かくないと、上にのるタネが絶対生きない。刺身を冷ご飯で食べる味気なさを想像していただくと、わかりやすいでしょう。P160>
<車エビやタコはその都度ゆで、人肌の温かさで出すと香りが立ってうまみもグンと濃くなります。>
<煮物のアワビ、シャコ、ハマグリなどは煮上がったものをゆっくり冷まし、常温になったところを味わうと、おいしさにも深みが増してくる。>
<本マグロも冷たいままでは、特有のさわやかな血の香りがまだ眠っています。冷蔵庫から早めに出して、常温よりやや低い温度になったら食べごろです。ウニやコハダ、ミル貝や赤貝などの貝類もそう。>
<生で出す青魚、アジやイワシなどは直前までキリッと冷しておいたほうが、余分な臭みも出ませんし、清涼感のある味わいが楽しめます。P161>
これらは、小野さんが長いあいだに試行錯誤のすえに行き着いた貴重なノウハウである。あえて細かく記載させていただいた。
このノウハウを鮨屋のカウンターでしゃべったら、嫌味な客だと思われるのがおちだけれど、どこかで使いたいな。